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 大 峰

 一番星

チキンハートな単独登攀

大峰グランドイリュージョン 2012
 




大峰アイス(大普賢岳地獄谷氷瀑群)に通い始めて12年になる。
年をとったものだと感心するが今も飽きずに通っている。
グランドイルージョンについては登攀チャンスがあるのは年に多くて2-3週で凍らない年もある。今期は年始1週目にはすでにつながっており計7回も通うことができた。Gイルージョンの上には地獄谷本谷最奥(頂上直下)の般若の滝50mがあり双方難度は5級+で継続すると150mにわたる米子級(日本最大級)と肩を並べる。 関西に居ながら三日もかかる米子級を一日で体験できるのだ。その右隣のルンゼにはシェークスピアから左上する双子氷柱20m+コーラルベール30mがあり、 スカスカの中空氷壁で5級+にしては厳しい思いをした。 さらに右隣のルンゼにはシェークスピアから右上する閻魔大王100m+天の道+天使の翼100mがあり、7級と体感したツララのどっかぶりを含む全350mにわたるビッグルートである。 前者は切れ込んだ谷底の急斜面と深雪による雪崩の可能性高くてチャンス少なく、後者は広大な半すり鉢状の急斜面なため上部の巨大氷瀑100m×2本の落氷はもれなく天の道を直撃する。豪快なチリ雪崩もさることながら、50mの空中に到達する巨大ツララであるため気温日照の影響を受けやすく、人為的な崩落の危険があり繋がったとしても登攀のチャンスは稀だろう。 我々の初登成功は強運によるものだった。 閻魔様が再び微笑んでくれるとは思えないので二度と触りたくはない、日本一の大氷瀑だと思っている。  その点Gイルージョンはチリ雪崩も知れているし氷と岩が接触しているのでよほどの陽気や雨にさらされない限り突然崩落するとは考えにくい。 安心して取りつけるので本当は秘密にしていたい、温暖な紀伊半島の秘境にそびえる大芸術だ。美しくて神秘的そして威圧的な自然の造形に手足をぶち込み宙と墜落恐怖を背に天に向かって攀じること、その快感ときたらたまらない。
自分のような小心者でも修行によって向上を体感できる。 すなわちそれは「心技体」。 儚い自己満足だが確実なご褒美であり、単独でそれを行うというのはより一層の御利益が得られるのだ。  2003年に ソロビレーシステムによる単独登攀に成功して以来、ソロは止めるつもりで毎年パートナーを募集してはいるのだが、すっかり年中行事となっているのがその結果だ。 どうやって登ってるの?と聞かれるのと、正直近年故障も多く老眼顕著で視力体力知力まで減退を自覚する、ひょっとすると来年は本当にソロを止めているかもしれないので、最後かもしれない単独登攀の風景を記録することを思いついた。すると近年稀に見るGイルージョンの当り年となったのだ。

1/7   ソロ ハムレット-アウトサイダ-F1を登ってGイルージョンへ
するとなんともう凍っており驚いた。例年繋がるのは1月末だ。
登攀中のPは大きく右にトラバースしていた、まだ到達して間が無いのだろうシーズン早いとシャンデリア状だ。
1/14   ソロ Gイル 何度トライしても新鮮。
時期が時期だけに駆け抜けていった先輩方に合掌してから登攀開始。
単独登攀は自分自身との真剣勝負、一刀入魂のスイングは格別の感慨だが、呼吸の乱れや激しい気力体力の消耗はいまだにチキンハートを思い知らされる。
 今回はロープを入れる袋を持参しビレーポイントに吊るすことでロープを濡れと凍結から保護し作業効率が大幅に向上、出だし30-40センチのオーバーハングは氷質良いので大胆に越えることができた、最終3P目緩傾斜面はまだ氷薄く幾度も岩を打ちピックと神経を磨り減らす。厚い氷を見つけて約80mを4時間で終了 。Vスレッドのシュリング回収方式でゴミを残さず下降。撮影のために同ルート下降としたがすでにバッテリーは低温障害で終了。今回は我ながら洗練されてきたと思えないではないが気力限界、般若へ継続し目標の米子級に挑むにはまだまだ修行が足りない。ソロでもビレーされているのと同じ力を発揮するには「平常心」が大切だと思うのだが、そういうのを「侍の魂」と言うのだろう、チキンな自分には永遠の課題だ。
1/21   OZWくんと一緒、惜しくも大雨の後の陽気で期待しない入山だったが、この劣悪氷でも先行Pが!今回はビレーしてもらえるので先行に気を許して左のラインで登ってみることに。テンションをかけていると自重で見る見るスクリューの穴が広がる。フォールしたらスクリューすっぽ抜け連鎖でGイル−ジョンでGフォールに違いない。2P目左は水の流れるシャンデリア、右直上は先行の落氷に迷わず撤退。

1/29   ツジモと一緒 、 Gイル2P目をわざわざ左へトラバースし、かぶった氷柱ルートを選んだ。6級−といったところでGイル正面に垂線を引く豪快なルートだ。例年は水のしたたりから開放される2P目だが今回は先週の大雨のせいで水量が多くずぶ濡れに加えて風と低温でアックスもリーシュも見る見る氷に覆われリーシュの脱着が困難になる。やがて遂にリーシュが外れなくなり手首が痙攣。 3P100m終了後はすっかり気力を失っていたがツジモのラッセルを追っているうちに回復。
般若の滝への継続は4-5年ぶりかもしれない、般若中段核心のツララ氷柱7-8mは今回太く簡単そうだったが、Gイル上部の薄氷で岩を打ってピックが鈍らになり打っても打っても氷が割れる。 それに再びの雨降り状態はうんざり、どんどん濡れて冷たくじっとしていられない。大峰仕様の手袋(800円)からは黒い汁がほとばしり、冷水が腕を伝ってわきの下に至っては鳥肌。外から雨、内から汗。休憩無しの必死のスイングに両腕パンプ。上部5-6mは左垂直部を越えるつもりが、右緩傾斜面からさるすべりの枝にみじめにぶら下がって終了。 ロープは凍ってハリガネとなりビレーヤ泣かせとなった、アイス初心者のツジモ、新調のリーシュレスを使いこなしいきなりの米子級は「ナマイキ」。。本日カメラ充電不足でいきなりの低温障害、体で暖めたが般若の遠景1枚で終了。





            
2/4   ソロ  6:30出発なのに先行無くGまで5時間半のへこたれそうな一人ラッセル。なんとめったに繋がることのない左氷柱が繋がっており、これを確認したのはこの10年で二度目。 薄カブリの薄氷だがそそられるラインだ。左側壁からツジモと登った氷柱に達したらGイルで最も厳しい一直線6級ラインの完成だ。登れたら「Gイルージョン左ディレティシマ」としよう。直登主義は難しくてカッコイイ。 たよりないツララ下にVスレッドで支点工作、氷は断面が丸く薄くてスクリュー効き難くVスレやシュリンゲ巻きを利用.,最後はアックスの効かないキノコ畑の急斜面をスタンスを崩しながらのトラバースでビレーポイントに到着、冷や汗噴出、25m。中間支点9個、1pで精魂尽きて本日終了。自分の経験した中では最も厳しい手に汗握る単独登攀に大満足。薄氷オーバーハング脆い氷質スクリュー困難など5級+では説明がつかないので初登ラインに違いない。
2/5   ソロ  Gイルージョン左ディレティシマ2P目をつなげたい。4時過ぎ出発7時着。冷え込みも氷も良い感じ。取り付きにはなんとカメラマンのご一行。証拠写真を撮ってもらえるのはラッキー。
昨日登ったルートは荒れたままでさらに薄くツララにはヒビ、昨日の穴にスクリュー入れるのも気持ちが悪い。気温が低く氷が乾いているので修復されないままなのだ、これ程の冷え込みは大峰では珍しい。真ん中のオーバーハングは二度も登ったので、簡単そうな右ラインとした。2P目から左ディレティシマへは再びのキノコ畑と薄いツララ壁。。3mトラバースの先に支点が取れなければ6m以上のランナウト。。。うーんソロでは無理。。。ため息であきらめ、まっすぐ登攀。朝日を受けて氷が濡れだし、傾斜緩むためチリ雪崩が袋にたまっては濡れ凍りつき、ロープ詰まってすっかり裏目に、上部緩傾斜面はピックがもったいないので3P目は10mで終了。。「Gイルージョン左ディレティシマ6級 50m 」2P目ソロでは敗れたものの先週ツジモと登ったので一応このたび完成ということにしよう。 キノコ畑は避けたもののグレードに変わりはない。

2/19   ソロ  Gイル左ディレティシマ単独初登目指したが大雪警報の出た先日の新雪で一人ラッセル。 雪深く空荷でトレースをつけ再度登高したが、6時間もかかったのは自己嫌悪、どんくさいの新記録だ。 遠目から閻魔大王が繋がっていたが本日は激しいツララ混じりのチリ雪崩に見舞われるだろう。 Gイル目標の左氷柱は雨の後の低温によって大きく張り出したが一層貧弱不安定。これでは壁に張り付いていてくれた先週の方が易しい。ツララとシャンデリアの発達でGイルはトゲトゲしくなり荒れ狂っているように見える。 上方には凄い勢いのクラゲ氷塊が次々に出現、いずれも奥の薄氷壁との接着面が少なく叩き落としてもスクリューが打てる状態ではなさそう。 それでも5-6m登ったが。。。上はバックの氷壁にまでみっちしイソギンチャクがこびり付く。。クラゲ多すぎ。。。氷壁薄すぎ。。15m上はキノコの傘のオーバーハング40-50センチ。。思い出すのは閻魔大王のドッカブリ(あれはトラウマだ)。。 低温+降雪+流水が起すGイルには珍しい造形だが、だからといって越せないとも思えない。昨年登ったコブラ右くらいかなー?。。まさしく 6級+だろーなー?。。。スクリュー効かない所を全部Vスレやシュリンゲ巻きにしたらシュリンゲ足りない。。氷剥がれて墜落の可能性ありやなー。ダイナミックなビレーをしてもらわないと中間支点の連鎖崩壊。。。ソロでは無理か。。パートナーいればやれる。。。。でも登りたい!。。もう少し待ってりゃ誰か来ないか?。。。結局ツララに穴あけて撤退。右に移れば登れるが気持ちが折れた。5mを登攀するのに6時間は割の合わないラッセルだったが、下りは1時間かからない。雪は積もるほどクッションになり下りは楽しい。そして温泉はいつものように気持ちいい。

2/25  早朝3:00今期最後の予定で家を出たら予想を上回る気温で雨降り。。終わった。
写真家の皆さんに問うてみた写真のタイトルは「リスク」だそうで。
それでは家族に申し訳ないので「ソロ」「単独」くらいにしてもらえないだろうか。

「大峰アイス+単独」
本人は「信仰」のつもりだが「ハイリスクノーリターン」は言えてる
これは「悪徳宗教」に等しい


※ このルベルソの使用法はメーカー保証の対象外です。
シングルロープでの使用についてはロープ経によって滑りや流れの可能性があります。
単独登攀では専用のデバイスの使用をお勧めします。
(システムの安全を保証する技術ではありません。)